
出版大崩壊 (文春新書)
著者/訳者:山田 順
出版社:文藝春秋( 2011-03-17 )
新書 ( 256 ページ )
著者の電子出版の予測は、「単価がどんどんと下がり、時には無料となり、コンテンツを制作している人々が生活を維持できなくなる。プロのプレイヤーが減っていき、結果として混沌の、ゴミだらけの世界になり書籍は消える」というもの。
それはそれでいい。
じゃあ、「出版」は果たして何をするんですか?
たとえば、著者は書中で、出版社は「中抜き」される事を恐れている、あるいはいた、ということを書いています。
中抜き、というのは、
著者→出版社→書店→読者
(実際はもうちょっと間に入る)
という販路を経ていたものが
著者→書店→読者
という販路になる、ということです。ようするに「出版社外し」ですね。
でも、そんなのあたりまえじゃないか、と私は思ってしまう。
既存出版社が提供している価値、というのは5つある。
・販路確保、流通
・印刷製本
・集金
・編集
・宣伝
ところが、電子出版を前提にした場合、この5つのうち、上から3つは不要になります。
たとえばAppleのAppStoreで電子書籍を売る、ということを考えた場合。
販路はAppStoreしかないから、どこの出版社に持ち込んでも関係が無い。リアルに本を刷って運ばなければならないという流通も存在しない。
増版というものも存在しないので、初回の制作が済めば(アップデートなどは別としても)どれだけ売れても印刷や製本を行う必要はない。
集金もAppleが勝手にやってくれて、振り込みまでしてくれる。
そしてこれらは法人を介す必要すらない。まったくの個人でもなんら支障が無くこれらのサービスが受けられるわけです。
となれば、出版社には、残り二つの価値しか提供するものはありません。
マーケットに即した、あるいは編集者が本当に価値があると思う本を編集して世に出すこと。
それとその本の宣伝。
です。
ところが、既存の出版社で、こと電子書籍となった場合にこのノウハウを持っている人がほとんどいません。
この本でも書かれているとおり、既存出版社の編集者は「リッチコンテンツ」の制作なんてしたことがないから、そんなノウハウもっていやしない。
宣伝だってそう。出版社の宣伝っていうのは、もう判が決まってて、書店に平積みの領域を広げるか、フェアをやるか、タイアップか、しかない。
電子書籍では、平積みの領域を広げるなんてことはできないので、そんな宣伝方法はない。あとはフェアかタイアップだけれど、どっちも出版社じゃなくてもできる。というよりも、むしろ出版社じゃない方が都合が良かったりする。たとえばタイアップなんて「あなたの持っているAと私の持っているBでコラボしましょう」ということなわけで、当たり前だけれどそのためにはコンテンツやプラットフォームを握っていなければいけない。出版社は本質的な意味ではどっちも持ってない。だから単純に二者間パートナーにはならないわけです。
というわけで、AppStoreで電子書籍を売る場合、既存の出版社が提供出来る価値は実際のところほとんどありません。そんな状況で「中抜きが怖い」とかいうのはどうかしています。お金だけ欲しいです、といっているようなものです。
日本の電子書籍がらみの出版社の動きというのは、そういうあたりを無視していて、販路も守る、プラットフォームも守る、集金も……とやっているから結局使われなくて倒れていくんですよ。
この本にはそういうあたりの考慮がかけているように思います。
個人的に疑問なのは、なんでここで「じゃあ俺の長年培った編集スキルを、提供してやろう。俺が作家に育ててやる」とか「宣伝は俺に任せろ」とか「新しい本の時代を俺たちが作ってやる」とか、そうならないんだろう?
優れた編集者と組みたい著者は結構いるし、本をまだ出したことが無くて編集者を必要としている人もたくさんいるだろうに。
旧来のモデルでは出版社が先に金を払い、書店に卸して金を回収する、というモデルだったので「売れないとこっちの持ち出しが」ということが本書でも書かれて居るのですが、だったらビジネスモデルを変えてしまえばいい。
売り上げを折半したり、先に編集者の人工分を著者からもらえば解消する問題だと思うのですが。ようは編集能力とかプロデュースの力を売ればいい。
そこには、再販制度などによる出版社がこれまで即死はしなかったというぬるい業界構造になっていたので、とりあえず本を刷れば何となく自転車操業できるから、粗製濫造でも一応食えて、結果、そうした防衛された空間でないとなにも出来ない業界人が多くなってしまった。だから出来ない。という風にしか見えないんですよね。
もちろん、優秀な編集者さんはたくさんいるし、挑戦心旺盛にチャレンジしている人もたくさんいるのですが、結局全体としては競争力のない産業構造になっていた(出版社からは異論あるでしょうけど)としか言いようがない気がします。
で、個人的にはそういう状況のなかで、出版社は、編集者はどうするのか、ということを、期待していたのですが、結局のところは「電子化でコンテンツディベロッパーは皆死ぬ!」という結論で終わっている、というのが何ともいえない感じです。
とかなんとか書きましたけれど、同意出来る箇所は結構多かったです。
このまま進むと、コンテンツ作る人がどんどん倒れていって……というのは、たしかにこのままだとそうなってしまう。
それに対する回答が、まだ無い。暗中模索。
○目次
第1章 「Kindle」「iPad」ショック
第2章 異常な電子書籍ブーム
第3章 そもそも電子書籍とはなにか?
第4章 岐路に出つ出版界
第5章 「中抜き」と「価格決定権」
第6章 日本市場の特殊性
第7章 「自炊」の不法コピー
第8章 著作権の呪縛
第9章 ビジネスとしての電子出版
第10章 「誰でも自費出版」の衆愚
第11章 コンテンツ産業がたどった道