2011.01.24
即戦力は3年もたない:読んだ本
即戦力は3年もたない 組織を強くする採用と人事 (角川oneテーマ21)
著者/訳者:樋口 弘和
出版社:角川書店(角川グループパブリッシング)( 2010-12-10 )
新書 ( 205 ページ )
この本はなかなか面白かったです。
タイトルだけを見れば、「中途採用は、短期スパンでの活用であると割り切り、社内のプロパーを育てよ」という提言をしている本かと思いますが、実は違います。
現状として中途採用が結果として長期的に活躍する人材になりにくい、と言うことを述べてはいるのですが、それは主眼ではなくて、実際に本書で述べたいことは、「そもそも人事・採用で何を観点にすべきなのか」「人事や採用を通して組織をどう構築していくのか」「幹部候補を採用・育成するにはどうすればいいのか」という点です。
副題は「組織を強くする採用と人事」ですが、まさにこちらがメインです。(最近の本はこういうタイトル構成多すぎですが)
基本は経営者向けの本ですが、視野を広くしたい若手の社会人にとっても良い本だと思います。
個人的にはこの本の根底にある人事への観点は、些か古い価値観に基づくとは思います。
経営者としては長期的に活躍してくれる人材を確保しておきたい、というのは分かるのですが、現実問題としてそういう人材を確保するためには教育だけではなくてしかるべき待遇が必要である、という所までには踏み込みが弱いかな、という感じがします。会社に育児スペースを設ける、等の取り組みが紹介されていてこれはとてもいいと思いますが。
本書では、全体を俯瞰的に見ることができたり、組織コミットメントの意識の高い人材がそういった層になり得るという意見ですが、今後そういう人材に「会社への忠誠心」といったものを求めて、企業がホールドし続けるのはたぶん無理でしょう。
従って、「忠誠心の高い人材を幹部候補にする」という、人事コミットの仕方は、単なる経営者の甘えで、本来としては「長期的に活躍して欲しいのであれば、長期的視野で取り組む事が可能な待遇を与えるべき」であると思います。
程度問題ですが、順序としては、「能力や展望による処遇」が先で「忠誠心」は後になるのが正しい。
いや、そもそも会社に対する忠誠心などというものが必要なのか、という話もありますが。信ずるものは救われる、ということで、持つのは構わないけれど、それに経営者が期待するのは、単なる甘えでしょう。
しかし、日本の経営者(特に中小)の場合、人的資源に対する視点が、建前と実際に違いがあることがまず拙い点であると思うんですよね。しかも、その違いを当人が認識していないことが多い。
成果等にフォーカスしているといいながら、実際は社長のお気に入りだったり、周囲と波風を立てないような人間だけをピックアップしていくことが明らかに多い。所謂「文系」(この分類にはあまり意味ないと思うけど)の人材を中心に登用していく。
コミュニケーションに少し問題があると、他のスキルが抜き出ていても、その人は拾い上げられないわけです。いや、そもそも、使いこなせない。そしてそれ以前に、社長のコミュニケーション能力が一番問題が大きいことが往々にしてある(笑)
だから、こういう「幹部候補には組織への忠誠心が必要である」という話になる。
そして根底にこういう考え方があるから、結果的に中途採用が失敗するんだと思います。
私自身、経営者の真似事のような事をしていますが、どちらかというと、新卒採用よりも中途採用の方が、採用の成功率という意味では高いです。
というのは、基本的に採用時には「その人に何をしてもらいたいのか」というのがまずあるのですが、これが出来るのか、という判断の為に必要な情報は、中途採用の方が多く拾える為です。逆に新卒採用の場合は、そもそも仕事の経験が無い人が多いので、やれるかどうかは全て可能性の話になってくる。教育それ自体はやぶさかではないのですが。
こういう「幹部候補」、客観的な視点や、広い視点を持っていたりする人材、というのはぶっちゃけ、育成をしてなってもらうという人材ではない、と言う風に思います。
そもそも、新卒でも中途でも採用時に「長期的活躍」を期待して採用するのはまず間違っていると思うんですよね(もちろん、よく知っている人材や実績のある人を引き抜いてきたりするときは話が違います)。
本人がその気にならなければどうしたってそんな人材にはならないんですよ、結局。業務に必要な能力を企業が教育するのは当然ですが、「企業がボクをステップアップさせてくれる」という考え方は根本的にダメでしょう。
確かに、価値観の伝達や、スキルや思想を伝える、という意味では広い意味では「育成」になるんですが、誰がそういう人材になるかは、本当のところ、摘んでみないと分からない。
重要なのは育成しよう、という所よりも、ある人材がそういう成長をしたい、と望んだときに伝導する気を持ち、実際にそのときが来たときに摩擦を恐れずにお互い成長していくことかな、と思います。そういう姿勢は伝わるものですし。それを言葉で綺麗に飾ってその気になった気分になっただけの状態が一番あぶない。
ただ本当は、そういう人材の大元を育成するのが、本来の教育機関の役割だったりすると思うんですけれど……日本はそういうの機能してないですからね。
と、まとまりはいつものごとく欠いていますが、若干の視点の違いは感じました。ともあれ、クリティカルな話ではなくて、本書はとてもいいことが書いてあると思います。
特に、人事や採用についての視点が、よくある「面接官の心得」「面接者の心得」ではないところがいい。前者は若干その視点がありますが。基本的には経営者に向けて書かれている本だからだと思います。
そもそも、採用の目的がどういうものであるのかを想起させ、人材をどういう風に分類して組織を組んでいくのか、の例から、モチベーションのタイプ、成長のプロセス(やるべき仕事→できる仕事→やりたい仕事)など、人事戦略の考え方がよくまとまって示されています。
前述の所謂「幹部候補」になりたい、というような新人の人にとってもいい視点を与えてくれる本という印象をうけました。
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